制作の記録 2020.11-2022.1


 

 

 

作品紹介14
赤い実ひらく

 

 

F4(24.3㎝×33.4㎝)

2021年11月30日

山陽新聞 読者文芸挿絵

 

10月中旬、石榴の実と柚子を分けていただきました。
新鮮な石榴は紅色とも表現したらいいような、皮も実もうっとりするほど綺麗な赤色。これは絶対絵に描かねばと、秘蔵っ子の布と組み合わせてセットを組み、3号と4号の2枚を同時進行で進めることにしました。
3号の画面になかなかモチーフが収まらず、随分四苦八苦して大雑把な色をのせるところまで進めました。
続けて4号の画面についてはあっさり形が収まり、大雑把な位置が決まったところで初回の制作は終了。

結構楽しく描けたので、すぐ完成するに違いないと思っていたのですが、この時期は何かと忙しく、描き始めた日から次に手を入れるまで約1カ月も間が空いてしまいました。


美しい赤色はまだ残っていましたが、丸かった果実は随分骨ばってしまいました。柚子もすっかり変色。
最初に見た時の感動を思い出しながら制作を再開。


まずは3号を一気に仕上げ、次に4号を仕上げました。
同じモチーフの作品をサイズや進め方を変えて複数枚同時に描くことはあるのですが、大概1枚しか仕上がりません。
今回は何とか2枚ともにサインを入れることができました。

赤い色にこだわりすぎて描き込みすぎたり、果実自体のサイズや形の変化からに合わせて構図を変更したり、床面と果実の色合わせで苦労しすぎたりと結構大変でしたが、最後に描き上げた4号はカリっと仕上がったので満足です。

一年の終わりにひらいた赤い実。どんな夢を見ながら冬を越すのでしょうか。
今年一年お疲れさまでした、この一年の実りが、翌年美しく花開きますように。
そんなささやかな願いを込めて描いた、赤い実と花模様の布の小さな作品です。

2022年1月~3月は大作制作シーズンに入ります。
HPでの作品紹介更新は不定期となりますので、ブログを楽しんでいただけますと嬉しいです。
皆様良いお年をお迎えください。

(2021年12月13日)


 

 

 

作品紹介13
水辺

 

 

F4(24.3㎝×33.4㎝)

2021年11月1日

山陽新聞 読者文芸挿絵

 

10月。いろいろな締め切りが終わり、ほっと一息つける月。
今年も月の始まりに大仕事が終わり、そこから10日ほど疲れを抜いたり家の雑務をしながら過ごし、定期検診で南下した12日の午後に、次の制作に向けて後楽園周辺へ取材に出掛けました。10年以上前に描いた岡山城側から見た大イチョウの絵をもう一度描いてみようと思っていたのです。


ところが目当ての駐車場に入り損ね、あれよあれよと、流れに任せて走るうちに橋を渡り反対岸へ。

そうして偶然出会ったのがこの場所。

まずはクロッキー帳に大づかみにスケッチ。3枚ほど描いてイメージをつかんだらこの春に購入したタブレットで描いてみました。スケッチの現場で活用するのは初めてでしたが何とか使うことができました。

 

そして更に日をあけること16日、ようやく油彩画セットを持参して制作。スローペースですねぇ…。
スローなくせに、目移りしやすい性分なので、後楽園周辺を歩くうちに描いてみたい場所がいろいろ見つかり、そのたびにスケッチをするうちに、肝心のこの場所での制作は1時間30分程になってしまいましたが、大雑把に写生はできました。

さあ仕上げるぞとその日のうちに北の家に戻ったものの、その後風邪気味に。何もできないまま2日間が過ぎ、制作再開は10月31日となりました。

写生には写生の強さがあるのですが、対象の色と形をそのまま写した色と形になるので、いつも一旦画面をつぶしています。まずは画面を整理するためにローラーを使って青くつぶし、その色に合わせて全面的に色調と形を整理していきました。今回は秋の風が吹く爽やかな画面になればいいかなと。水面はスッキリ描けたので気に入っています。


悩んだのは仕上げです。
ここは岡山県人なら良く知っている「水辺のももくん」の像があり、遠くにはシンフォニーホールも見えます。一枚の絵として考えたら、そういうシンボリックなものが入らない方が普遍性のある風景になるでしょう。しかし岡山の新聞の挿絵なので、皆さんの馴染みのあるモチーフをそのまま入れた方が良いような気もします。

制作最終日、構図的に左が抜けすぎていると感じ、シンフォニーホール等ビル群も画面左上に入れてみたのですが、ビル群の形が木立のリズムと重複し、かなりもたついて見えたので消しました。そして画面の真ん中にはももくん像を。ちいさな像なので描き込むのに苦労しましたが、この像は入れて正解だったような気がします。

タイトルもなかなか決められませんでした。

岡山の人ならこの景色と中央の小さな点をみて「あれはももくんの像だ」と思ってくださる方がいらっしゃると思うのですが、これを他県の方がご覧になったらどう思われるのか…。とてもじゃないですが米粒大の点はブロンズ像に見えないような気がします。

「小さな彫刻のある水辺」というタイトルをパソコンで打ってその文字を眺めました。全部で10文字。ちょっと勿体ぶっている感じがします。では端折って「彫刻のある水辺」ではどうか。いやいや、この程度の大きさなのに彫刻とタイトルで入れると益々説明的な気がします。全部端折って「水辺」ではどうか。字面もあっさりしているし、ちょっと素っ気ないのではないか。もう少しポエジーな方が良くない?…でもそれ以外の言葉がひねり出せません。

う~んと考えて、結局一番シンプルでそれ以上でもそれ以下でもないタイトル「水辺」に決めました。

ちなみにこの像が設置されている場所は新しく始まる朝ドラの撮影場所になっています。先日テレビを見ていたら、まさにずっと見ていた場所をヒロインが自転車で走っていて、嬉しい驚きでした。

次回は12月上旬公開予定です。

→詳細についてはブログ内カテゴリ「2020.11‐2022.1」をご覧ください。


 

 

 

作品紹介12
果実

 

 

F10(45.5㎝×53㎝)

2021年10月4日

山陽新聞 読者文芸挿絵

 

小品を描いていると、途中で進まなくなり保留にしておく作品がでてきます。この作品もそのうちの1枚でした。
描き始めたのが去年の10月24日ですから、随分長い間触っていたことになります。大きな締め切りや気になっていた仕事が終わりストレス解消に描き始めた作品なので、じっくり考えず勢いでモチーフを組み、一気に描きはじめました。

植物模様の布の上に本物の植物やドライの植物、織機、オブジェをこれでもかと並べていたのですが、しばらく描き込むうちに構図の悪いところが気になり始め、どんどん整理するうちに構図が破綻。モチーフの洋梨が変色し小さくなるまで描き続けたものの、色調は好きなのにどうにもまとまらない。

こういう時はしばらく放置するのがいいと、筆をおいたのが昨年12月上旬のこと。

常に目に入るように部屋の壁の高い所に掛け、他の作品の制作中もいつも目の端で眺めていました。
何度見てもやはり色調は好き。あと少しでまとまりそう、今度こそ完成するのではと手を入れ始めるのですが行き詰ってしまう。その繰り返し。

今年の9月になって「白い皿の上のブドウが必要だ!」と思いつき制作スタート。

途中から日展の制作も始まったのでモチーフ皿ごと冷蔵庫に保管したりもしましたが、なんとか萎れないうちに制作を再開することができました。


あまり明度差をつけず微妙な色調の違いだけで布の模様と実物描いて作品にしたかったのですがなかなか難しく、最終的には明度差をつけたり視点を誘導するためにナイフで大きなタッチを入れたりして仕上げました。
想像以上に時間もかかり、思っていた色調よりもやや涼しい感じになりましたが、長い長い宿題を終えたような気持ちです。

次回は11月上旬公開予定です。

→詳細についてはブログ内カテゴリ「2020.11‐2022.1」をご覧ください。


 

 

 

作品紹介11
慈雨

 

 

F6(40.9㎝×31.8㎝)

2021年9月1日

山陽新聞 読者文芸挿絵

 

8月中旬のこと。夕食後窓の外がピンク色に染まっていることに気付きました。
山あいの村なので、岡山市内で暮らしていた頃のように夕日を当たり前のようにみることはできません。窓の外が染まるほどの夕暮れなんて久しぶり。見逃してなるものかとカメラも持って外へ。
この日は景色がピンク色に染まっていて、山々から蒸気が空に向かって立ち上がっていました。
いつもの裏山も、姿を現したり隠れたり。ピンク色の世界の中でいつもと違う表情を見せています。
しばらく上の方を眺めて楽しんだ後、ふと視界を下げてみると周囲の田んぼでは稲穂がすっかり黄色くなり、豊かに首を垂れているではないですか。いつの間にか季節が巡っていたんだなぁ、もっと外を眺めれば良かった、勿体ないことをしたと少し後悔しました。そしてポツリ、ポツリと雨がー。

ピンク色の世界、山と空を繋げる白い蒸気、いつの間にか実っていた稲、ポツリポツリと降り始めた雨。
この夕べの景色を一つの画面にまとめようとおもい、まずは構図を作ってみました。
ポコッとイメージは固まったので、これはスムーズに制作が進むぞと思っていたのですが、色と形にしていくというのはやはり難しもので。

フラットな後景に対しての前景の稲をどう描いたらいいのか。
完全にフラットにしても良かったのですが、稲の葉が生い茂る中に穂がある感じや、緑の匂いがしてきそうな密集する稲の感じを残したかったのでこのような仕上がりになりました。
どうしても裸眼では稲穂の部分が仕上げられなかったので、初めて老眼鏡を掛けて仕上げた記念すべき(?)作品でもあります。

******

余談ですが、この作品では特に撮影に苦労しました。
ターコイズブルーやエメラルドグリーンの微妙な混色で画面下半分を描き進めたのですが、私のカメラではターコイズブルーが飛んでしまいます。浅いブルーが捉えられないなぁとは以前から感じていたのですが、今回は特に実際の作品とデジタル画像での作品の差が出てしまい、何度も加筆修正をすることに。
デジタルに色まで合わせるの、それはどうなのと思われるかもしれないのですね。

人によって色の見え方も違うし、それをデジタル画像に変換するとまた変わってきます。
例えば生演奏が一番素晴らしいという考え方もあるのですが、ラジオからの音であっても心をつかまれる旋律は数多くありー。
デッサンや色の捉え方の間違いをデジタル画像が教えてくれることは多いです。少しでも「届く作品」にするためにも自分の目以外の「目」として、カメラを通して見える世界やデジタル画像と今後も上手に付き合っていきたいと改めて考えた制作でした。

次回は10月上旬公開予定です。

→詳細についてはブログ内カテゴリ「2020.11‐2022.1」をご覧ください。


 

 

 

作品紹介10
夏の庭

 

 

F6(31.8㎝×40.9㎝)

2021年8月4日

山陽新聞 読者文芸挿絵

 

ふと、イラストレーター・画家として活躍された安西水丸さんの作品集が欲しくなり、「ON THE TABLE」という画集を購入しました。
テーブルの位置、画面の外を暗示させる絶妙な配置、明快な色彩、特に黒の美しさにくぎ付けになり、思いっきり影響を受けて制作した作品です。

7月は忙しすぎて作品の途中経過を記録するゆとりがなく、画面の変遷をご紹介できないのですが、出来上がりのイメージが明確過ぎて、途中で色が痩せてきました。そこで赤系の色で全体をつぶし、再度描き起こし、白と黒の画面ですが少しでも温かみがでればと思って進めました。

ベストだと思う形に整えても、毎日アトリエには入れないので、あっという間に草花は萎れ、水も濁ってきます。
描き上げるまでに3度草花を活け替えました。最後にはリンゴも腐ってしまい、リンゴも新鮮なものに取り替えました。
生けた植物の形はどんどん変わりましたが、目の前の元気な緑や果物に引っ張ってもらうような形での制作だったと思います。

夏の強い日差しや、草花から立ち上がる香りを感じていただけますと嬉しいです。
もう少し柔らかくて細くて優雅な線も描けるようになれたらいいのになぁと思ったりしています。
それは以後の課題ということで。

次回は9月上旬公開予定です。

→詳細についてはブログ内カテゴリ「2020.11‐2022.1」をご覧ください。


 

 

 

作品紹介9
光差す

 

 

F10(45.5㎝×53.0㎝)

2021年6月21日

(光風会選抜展:銀座洋協ホール)

(山陽新聞 読者文芸挿絵)

春の森を取材に出掛けたのが4月下旬。10号~20号の作品にできそうな構図を探し回ってなかなかいい構図ができず、家に帰ろうと山道を下っているときに、少し傾いた太陽の光が薄暗い木立の向こうの若葉を照らしている様子が目に入りました。逆光の木々の幹の隙間から見える緑の葉はとても鮮烈で、取材日の最後の最後に気に入る構図がみつかりました。

真っ過ぐに延びる木々のリズムが楽しいのですが、単調にならないよう調整をするのが難しく、画面での制作に入ってからもなかなか木の位置が決まりませんでした。

パッと見た時の鮮烈な印象をどう描こうかと試行錯誤しながら制作、途中写生的な感じでまとまりかけたのですが、黒い木立の向こうの明るい緑を強調しつつ、画面をもっと整理できないかと考え大きく色調を変更しました。

画面を整理したり色調を変えてみたり、いろんなことを試した作品となりました。

空間の中の、線と、色と、形。整理するものと整理しないもの。
もうしばらく、それらのことを考えながら制作を続けたいと思います。


 

 

 

作品紹介8
春の森

 

 

F20(60.6㎝×72.7㎝)

2021年6月20日

(光風会選抜展:銀座洋協ホール)

 

取材場所は粟倉神社。参道から見える木立です。馬頭星雲のように空間でうごめく大きな落葉樹、その向こうに光を浴びる若葉の木々、まっすぐな杉、檜のリズムが心地よく題材にしました(写真2)

エスキースはすんなりと決まり(写真2)、描き起こしもスムーズでした(写真3,4)。
今回は木々の伸びやかな感じが出せたらよいと考え、柔らかく大らかに進めるよう心掛けました。
逆光の木の暗さを出すために、黒の部分は岩絵の具をのせています。ザラリとした質感や、大らかな仕上がりが気に入っています。

構図も使用する色も仕上げ方もいつもとは違う形に挑戦でき、とても楽しい制作でした。


 

 

 

作品紹介7

 せせらぎ

 

F4(33.4㎝×24.3㎝)

2021年6月3日

(山陽新聞 読者文芸挿絵)

 

5月中旬になると、西粟倉の天然林も発光するような若葉で覆いつくされます。
緑に、せせらぎに…魅力的なものが多いのですが、複雑な空間に様々な要素が入りすぎてしまい、なかなかいい構図が見つかりません。
そんな時に同行してくれていた夫が、ここが面白いと教えてくれたのが今回の構図になった場所。
川の流れと枝の動きと木漏れ日に絞り込んだらいいのかもしれないと、写真④のように単純な構図を作りました。
その構図に沿って油絵具で大雑把に色をのせたのち、枝ぶりを少し描き込みます。
その後岩絵の具をのせて画面全体の色や質感を調整(写真6)、乾燥させてから油彩で描き込みをしました(写真⑦以降)。

今回の挿絵では様々な光の表情を描くことに取り組んでいます。今回は木漏れ日や薄暗い森を流れるほの明るいせせらぎなど、平素描かないものに挑戦してみました。
描いてみると、森の中は水平面が少なく空間が複雑です。当初は平面的に処理すればよいとシンプルに考えていたのですが、複雑な空間を色面で描いていく過程も勉強になりました。


 

 

 

作品紹介6

 

向かう

 

F130(162㎝×194㎝)

2021年3月26日

(第107回光風会展)

 

 長く続くコロナ禍ですが、こういう時にしか描かないものを描いてみようと思い、大きな鏡を買ったのは昨年の夏のこと。大きな鏡を見ながら日展用の100号を何とか制作して気が付いたのは「画面が大きいと鏡の前でじっとしていることは難しい」という、今から考えれば当たり前のことでした。
 春の展覧会では自分をモデルにするというコンセプトを継続しつつもう少し制作の方法を考えようと試行錯誤。 

 日展終了後から様々なバリエーションのエスキースを作ってみたのですが、なんだかピンとこない。

 

 こういう時だから観ていただく方に、何か清らかで希望に満ちたものをと考えたりしていたのですが、それは他の人をモデルにして描くなら可能なこと。自分をモデルにして何か希望を~と考えたところで結局しっくりこないということが分かりました。なぜなら、非常に今困難な状況なので。

 雪が降る日、20年近く着ている暗い色のコートと長靴を履いて、家の敷地内を歩く様子をビデオで撮影。モーションキャプチャーでポーズを集め、画面を構成しました。構図を考える段階から鏡の前で座る必要はなく、ポーズが決まってから鏡を使って形の確認をすればいい。

 そう決まってからは一気に進みました。私は白を基調にしたハーフトーンでいつも制作しているのですが、今回は大量に黒を使い、色調の美しさよりも明快な配色を心掛けました。またドローイングのような荒い部分やわざと線を残しながら、雪の部分や闇の暗さについては徹底的に白く、そして黒く平坦に塗りつぶし、歩く群れは遠くから観た時に青い塊になればそれでいいという描き込みで仕上げました。

 

 時間を経て眺めてみるともっと明快にできたはずだし、線をもう少し減らして量で茫洋とした群像を描けばよかったと反省点も多いのですが、それは次回の制作で消化していきたいと思います。

 

 想像より長く続くコロナ禍で制作も不自由が続きますし、仕事のペースも乱れがちですが、振り返った時に「この時でないとやらなかったことができたし、この時でないと描けなかったものが描けた」と思えたらそれで満点じゃないかなと自分を励ましながら、毎日を少しずつ積み上げています。

 


 

 

 

作品紹介5

 

山の朝

 

P4(33.4㎝×24.3㎝)

2021年5月3日

(山陽新聞 読者文芸挿絵)

 

 今年の燕は3月末に現れました。軒下の燕の巣は代々受け継がれており、今年も修繕を加えながら活用されています。
 さて、今年の住人は敷地内に設置してある単管パイプの小屋が好きらしく、高く突き出したポールにとまって休んだり、周囲を眺めている姿をしばしば見かけました。ある日の朝、山が薄い青色に見える日に、ちょうどいい感じで燕が明るい方を眺めてとまっていました。なんとも清々しく、この季節らしい雰囲気だったので、今回はこの様子を作品にすることにしました。

 不思議なもので、スムーズに進む制作というのは、最初にアタリをつける段階から「今回はうまく進むな」とわかります。今回はまさにそれで、途中に大きな変更をすることもなく、最初のイメージを壊さないようにだけ気を付けました。
 

 去年も新緑の裏山の様子を絵にしましたが、今回は早朝の少し霞がかった優しいブルーの山に仕上げました。

 好きな色調でまとめることができたので気に入っています。

 余談ですが、この燕は羽に白い模様が見えます(三枚目の写真だとよく見えます)。白い羽をもつカラスがいるように、燕にも当然個体差があるんですね。当たり前のことなのですが、燕の背中は黒いものだと思い込んで約半世紀過ごしていました…。


 

 

 

作品紹介4

 

春想

 

F4(33.4㎝×24.3㎝)

2021年3月31日

(山陽新聞 読者文芸挿絵)

 

4月といえば、やはり桜でしょうか。
定番すぎるかもしれませんが、桜のイメージから離れたものをテーマにするのはひねりすぎな気が。ここは素直に直球勝負するほうが伝わりやすいと考えました。
しかし、制作スタートのタイミングでは桜は咲いていません。
となると写真を活用することになるのですが、昨年撮影した桜の写真が活用できないか眺めてみて明らかになったのは、つくづく自分には写真から描き起こす力量がないということ。

どうしたものかと悩んでいたところ、今年は運よく早咲の桜を観察する機会がありました。
まだわずかしか開花していなかったものの、大きな桜の内側から外を眺めると逆光の花びらがとてもきれいに見えます。上部から垂れ下がる枝を描くというイメージをつかむことができました。

とはいえ、そのイメージだけで絵を仕上げるのは難しい…。

そこで今回は手元にある人物の資料と組み合わせて進めることに。モデルになってくれたのは2018年5月に村に来てくれた当時高校生だった女の子。村内のダルガ峰で一日いろんなポーズをとってくれ、どれも素敵でいつか絵にしたいと思って温めていた資料です。


まずは構図を決めます。
挿絵に人物の顔が大きく出るとちょっと主張をしすぎるかもしれません。F3号とF4号の矩形の中にメインとなる人物をどう入れるかパソコン上で検討します。今回は頭上に広い空間をとり、その中で桜のイメージの広がりを表現することに決め、やや縦長のF4号に描くことにしました。

挿絵完成までに桜が咲かない可能性もあるのでインターネットで桜の造花も購入。
花の種類にもよるのでしょうが、最近の造花は花びらの質感、枝ぶりなどの再現度がかなりが高いです。届いた桜の枝を窓辺に置いてみると、光の透ける感じが想像以上に美しく、安心しました。

まずは油彩で大雑把に色をのせ、その後鉛筆であたりをつけます。私は筆圧が高く細かい筆での繊細な形の描き込みが苦手なので鉛筆での描き込みを着彩の間に挿み込むことがしばしばあります。
背景には人物の頭上に垂れ下がる枝を想定して。
画面をシャープに見せるために窓を暗示させる長方形を登場させてみようかと思ってみたり。

大作の締め切りも迫り長い間挿絵を触らずにいたのでかなりギリギリのスケジュールとなっていたのですが、地域の桜並木が例年より早く咲き始めたので、3月下旬に満開の桜の様子を観察に出掛けました。桜の色や、桜並木を眺めた時の気分・その場の空気感を体感すると、もっと広々とした構図に変更した方がいいだろうと気づきました。

まずは背景を岩絵の具等とオイルを練ったペースト状の絵の具で背景をつぶし、それに合わせて人物にも岩絵の具を。
背景に偶然現れた色むらを活かし桜の枝を配置することに決め、窓辺の造花をそれに合うように設置します。
逆光の花々の塊の参考になるよう、ガラスの器の上に載せました。

硬くならないように注意しながら、できるだけ大らかな明暗で描くようにし、心地よい空気の流れが感じられるよう背景の調子を整えて完成。

今回も途中で背景の修正など入りましたが、久々に可憐な少女像が描けて楽しかったです。

遠い記憶の中の少女だったり、自分の少女時代だったり、憧れていた人だったり…。
それぞれの少女像や、春の記憶を重ねて楽しんでいただけたら嬉しいです。

 


 

 

 

作品紹介3

 

光降る午後

 

P10(53.0㎝×40.9㎝)

2021年3月1日

(山陽新聞 読者文芸挿絵)

 

 

3月。新しい生活に向けて準備を始める頃でしょうか。
どんな絵が相応しいのか悩んでいた3月上旬、児島での仕事の帰りに寄った王子が岳で素晴らしい海景を観ました。
その日は風は強かったものの、海はどこまでも青く、ポカリポカリと雲が浮かんでいて、何とも朗らかな気持ちになりました。現在の住まいだと鳥取からみる日本海が見慣れた海の様子だったのですが、瀬戸内はこんなに静かで明るいのかと感動しました。

 

のどかなこういう景色を描くのもいいなと思いながら展望台へ。逆光で見る海は先程までと打って変わり荘厳な姿に変わりました。

青く朗らかだった海は金属のような鈍い色に変わり、雲間からこぼれる光がスポットライトのように表面を光らせています。一瞬で心を掴まれたものの、これは3月の色と光なのか?あまりに神々しすぎてこれを描くのは違うのではないかとその時は思いました。

そして。
家に戻って撮影した写真を眺めながら3月分の絵を考えました。
いろんな資料を眺めても、やはり心に残っているのは逆光の瀬戸内。
しかし写真だとますますモノクロームに近くなっていて、3月の雰囲気はまったくありません。

そこで、主観に基づいて色を変更、穏やかな午後の海に光が降る様子を描くことにしました。
アルキド樹脂絵の具と油絵具、鉛筆や水溶性クレヨンなど様々な画材を組み合わせて好きな雰囲気の画肌に。実際は光る海面は強烈に白く光っていたのですが、絵を仕上げるうち白を寒々しく感じるようになり色味を足しました。穏やかな中に少しだけ神聖な雰囲気が出せたらと、仕上げに「天使の梯子」と呼ばれる光の筋を描き込みました。

結婚して西粟倉に住んでからは、瀬戸内海はとても遠い存在になりましたが、いつまでも光輝いていることでしょう。そのことが何とありがたいことかー。
3月は旅立ちの季節でもあります、瀬戸内の海に光が射している様子に、いろんな思いを重ねて観ていただけたら嬉しいです。


 

 

 

作品紹介2

 

東風解凍

 

F3(22.0㎝×27.3㎝)

2021年2月1日

(山陽新聞 読者文芸挿絵)

 

 

 

2月は赤~ピンクの花だと決めていました。寒い季節だからこそ赤い花がいい、飾りやすい小さなサイズがかわいいなと。
ところが、何事も予定通りにいかないもので。

今回は制作の記録というより、モチーフをめぐってのドタバタ劇の記録です。

さて、年末に義母からもらったシクラメンが元気に咲いていたので、これをモチーフに描くつもりでいたのですが、1月半ばに大寒波がやってきました。5~10℃が適温のシクラメンをアトリエに飾っていたため、-10℃近くまで冷え込んだ朝に根元からぐったり倒れてしまいました。この月は勤務先の関係で書類を作る仕事が沢山入る時期で、尚且つグループ展の事務局の仕事もしていたため、できるだけ早く仕事を終わらせて制作に入ろうとギリギリまで制作をせずにいたので想定外の展開に大慌て。

とどめに寒波の影響で水道水が止まりました(我が家は一旦水が止まると復旧に最大2週間程度かかります)。
仕事が落ち着く2月ならのんびり水を汲みに行くなど不便な暮らしも半分楽しみながら対応できるのですが、今回は1月。しかもいろんな締め切りが次から次へと迫ってくる時期。これはもう対応できないと判断して、1週間程度県南へ移動することにしました。もちろんシクラメンも一緒に。

ずっと眺めていたシクラメンの代わりに別のものを購入するという気持ちにはなれず、何とか復活してほしい、倒れたシクラメンが大霜を越えて復活する様子も絵になるじゃないかと世話をしたのですが、初心者がやりがちな世話のミスをしてしまったようで、元に戻るどころか、1枚の葉を残して球根の一部も含みすべて病気でダメになってしまいました…。

困った、これはテーマやモチーフを変えないと乗り越えられないぞと高松城址を歩いていたら、枯れた蓮が幾何学模様のように並ぶ凍った池、そして冬とは思えない透明感のある青い空が目に入りました。挿絵が掲載される2月5日は七十二候では「東風解凍(はるかぜこおりをとかす)」の時期です。なるほど暦の上では春なんだ、県南の人はこんな青空を眺めて暮らしているんだ、凍った池と青空を題材にするのもいいかもしれないと考えてみたのですが、ちょっと寒々しい…。朝、新聞を開いて最初に見る絵が枯れた蓮というのは元気が出ない気がします。

そこで実家に寄り、何か花が咲いていないかと尋ねた所「この時期は何にもないけど、山茶花なら」と母が終わりかけの山茶花を持たせてくれました。

終わりかけの山茶花-。
秋から2月にかけて赤く咲く山茶花は私たちの目を楽しませてくれる親しみ深い花です。

2月は立春。暦の上では春。蝋梅や店頭のチューリップ、スイートピーなど春の兆しを新しい花々にみつけることはよくありますが、花の終わりに春を感じるという視点はいいかもしれないと、さっそく構図を組み立てました。

 

県南で見た青い空、氷を解かす春の風が冬を彩る花も解いていくー。
落ちた花びらも入れた方がより伝わるかもしれないとも思ったのですが、くどくなるので省きました。花びらが落ちて花芯だけになった部分や、花びらの数が減って不自然な形になっている花で想像してもらえたらいいかなと。

予想外の事態に一時はどうなるかと思いましたが、何とか一枚仕上げることができました。次回はもう少し早く描きはじめられると思います。ちなみに、たった一枚の葉になりましたがシクラメンは今日も元気に生きています。

新しい芽が出てきますように!


 

 

 

作品紹介1

 

空にひらく

 

S6(40.9㎝×40.9㎝)

2020年12月28日

(山陽新聞 読者文芸挿絵)

 

 

 

読者文芸挿絵のお話をいただいたとき、1月は粟倉神社がいいと思っていました。
参道の清々しい空気、階段を上がりきったときにすうっと開ける視界、その先に静かに存在する拝殿。
新春にふさわしい題材だと。

 

そこでスケッチを何枚かしたのですが、素直に描くと、よくある神社の絵の構図になってしまします。
それを描き切ってもいいのですが、「清々しい空気」「すうっと開ける視界」「その先に存在する静かなもの」を表現するためにはもっと違うアプローチもあるはずです。

長い階段を上って見上げたポカンと開いた、何もない空。
周りの木々を「空を見せるための額縁」として扱い、天へ続くこの空洞を主役にしてみようと制作をスタート。
描き始めは空以外は額縁ぐらいの感覚で単純明快に進めることができるのですが、いざ仕上げとなると「手前と奥の緑の色の差をつけよう」「木々の位置関係を出さなきゃ」とか細かいところも気になるもので。
ひょっとしたらもっと小さなサイズで仕上げた方が、割り切った明快な仕事になったかもしれないなと思っています。


振り返ればいろいろ課題がある作品になりましたが、自分の視点にこだわった作品ができてよかったです。

ポカンと開いたシリーズ…例えばプールや池もそうだし、器を上から見てもそうかもしれないですね、今後も繰り返し制作をしてみたいと思っています。